LOVERSION Music レビュー

CD「Loversion 」

音楽ジャーナリスト・池田卓夫 編


詩情豊かなピアノで綴る現代日本の歳時記





和田七奈江さんの奏でるピアノは技ばかりが表へ出ることなく、まるで人の声のように、人の心の動き、自然の息遣いを歌い上げる。

よくよく考えれれば、ピアノは「打楽器」だ。音が線として発せられる声や弦楽器と違い、個々のキーを打鍵、ハンマーがピアノ線を叩いて出す音は「点」の連続でしかない。その点があたかも一つの線でつながっているかのように錯覚させる「レガートの幻想」こそ、古今のピアニストが競い合う表現の肝である。

七奈江さんの描く音楽はどこまでも自然で、ピアニストの苦労の痕跡を見つけることは難しい。体内にすでに、豊かな歌心があるのだろう。

「ラヴァージョン」は現代の日本に生きる1人の女性として、社会の隅々に流れ込んだ古今東西の名曲も取り入れながら、四季折々、生活の中で見つけた「歌」の数々を12ヶ月に割り振り、歳時記の趣でつづる。
誇張もくすぐりもない、等身大の音楽。
暮らしに潤いを与えるアルバムだ。

特別レビュー:作家・里中李生 編


和田七奈江には、上品な高級感があるのだ。


格差社会のせいなのか、世の中は物騒な事が多く、経済的にストレスになる場面にもよく遭遇する。そんな中、音楽に拠り所を求める人は多い。

和田七奈江の音楽は、愛をテーマにクラシック音楽を基盤にした落ち着きのあるクロスオーバー的音楽だが、精神的に高級感を与えられる品があり、物質的に高級を手に入れていない、例えば今の格差社会の人たちにも、音楽という高級を手に入れる瞬間に浸れる価値の高いものだ。ちょっとオーディオに凝っている人ならば、その美しい旋律に酔うことが出来、一クラス上の世界に自分を置く事が出来る。

今の時代は、もう、何もかもあきらめて、「平凡以下」の人生を歩むか、少しでも時代に抗い、「ひとつ上の高級」を求めるか、二者選択を求められている。

大勢の人は前者を選ぶが、そのためのストレスは、様々な劣等感を生み、自分の「民度」のようなものを下げてしまっている。しかし、後者を選べば、音楽にしろ、車にしろ、ひと時でも自分を優雅で余裕のある生活空間に導く事が出来るものだ。先程、「大勢の人が平凡以下を選ぶ」と言ったが、高級外車のディーラーに人がまばらなわけもなく、高級や「品」を求める人も多くいる。クラシックを基盤にした和田七奈江の音楽は、やはり、人生の辛苦を味わった、「分かる大人」に聴かせるものだろう。

特に、女性には、上品な趣味や、男から与えられる贅沢な空間が必要で、安いアパートで、ラジカセのようなオーディオで、悪質な音楽を聴いてはいけないのである。

ひとつ上を目指そうじゃないか。
女性は、もっと美しく上品にならなければいけない。人生をくつろぐためにも、一度、高級な音楽に触れて欲しい。高級と言っても決して重いものではない。重い音楽は今の時代に受け入れられないだろう。本作品は、前向きな気持ちになれる曲もたくさん入っており、決してナルシストではない。騙されたと思って、一度、本作品を持ち、高級ホテルの一室で、ワインでも飲みながら聴いてみて欲しい。女性には上品な安らぎが必要なのだ。

肩の力が抜けた時、清貧から離れた時、ヒステリックな気持ちが和らいだ時、大好きな彼氏が、同じような穏やかな笑顔で微笑んでいる時、その後、最高の夜を迎えた時、体の底からリラックスしている自分に気が付くはずだ。その時に流れる涙に、品や高級感があるのである。

特別レビュー:舞踊家・長嶺ヤス子 編




大好きなピアニスト七奈江さん。
私はピアノをひく彼女の背中を見ているのが好きなのです。
踊り手の私は、どうしてもピアノをひく人の動きが目にはいってしまいます。

彼女の背中は、胸は、腕は、まるで波を誘うように、
七奈江さんの想いをメロディーにのせていきます。

そして、その動きが止まる一瞬、すべてが静止して、
彼女の心の火は、目にも止まらない早さで鍵盤を叩くのです。
私は息をのんで、その先にある彼女の想いを受けとめ、
その後に訪れる優しさに、この上ないやすらぎを感じます。

時には日常生活のような、なにげないメロディー。
その中に秘められた目を見はる強さ。
ピンクのブラウスが似合う、美しい七奈江さん。
そんなエネルギーが、かくされているのが、不思議です。